フランス中東部、ブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地域圏(Bourgogne-Franche-Comté)に、スミュール=アン=オーソワ(Semur-en-Auxois)の町がある。
ブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地域圏などと言うと、少々かしこまった感じになってしまい、また範囲も広くなってしまうが、更に地域を絞って言えば、町が位置するのは
ワインの産地として名高いブルゴーニュ地方。
その中心都市ディジョン(Dijon)から西におよそ60㎞ほどいった田園地帯に この小さな町がある。
今でこそ 町の名前が知られるようになってきたけれど、この写真を撮影した2003年当時は、それほど知られた町ではなかったので、私としても 特に何かを期待して訪れたわけではなかった。
期待していないといっても、それは他の町に無い何か特別なものを……ということであって、決してマイナスの意味ではない。
この辺りの町や村は概ねどこも魅力的で、この町も例外ではない。
いつものように散策は楽しかったし、街は美しく、素敵だった。
街中には 古い建物が美を携えたまま残っていて、住宅のドアや窓には、現代風だったり古風だったりと、工夫を凝らした装飾がなされ、生活を兼ねた住人の方々の演出も素晴らしい。
もちろん、立派な教会や塔もあり、可愛らしいブティックや、オシャレなカフェもある。
運が良ければ見られる 美しい景色
さて、冒頭の写真だが、これは ある朝の アルマンソン川沿いから見た旧市街の景色だ。
風のない晴れた日で、空と町が川面に映り込み、とても美しい。
実は前日、夕方あたりから雪が降り出し、天気は悪くなる一方だった。
朝になり 晴天に恵まれたことは、運が良かったとしか言いようがない。
ピーンと張り詰めたような澄んだ空気。鳥の声だけが、遠くから近くから、重なるように聞こえてくる。
肩をすくめ 手に息を吹きかけながら、この景色の中に浸る。
前の日も同じ場所を訪れていたが、水面が波立っていたのだろう、この場所がこんなにも美しい姿を見せてくれるなどと想像することもなく、ただ町を見上げていた。
それにしても、これほど 見ごたえのある風景なのに、それを見ようと やって来る人が誰もいない。
出会ったのは、犬を散歩させていた頬っぺたの赤いお兄さんと、寡黙に釣りをする人(橋の下、右岸辺あたりにいます。)の二人だけ。
この辺りに住む人たちにとって、この美しい景色が、「当たり前のもの」ということなのだろう。